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聖歌は生歌

聖歌は生歌

聖母賛歌

 聖母賛歌はかなり古くから歌われてきましたが、最も古いものは、なんといっても "Ave Maria” です。原型は、6世
紀のヤコブ典礼(シリアのキリスト単性説の教会)にみられます。その後、とりわけ、ローマ教会では、聖母マリアへ
の崇敬が盛んになってきたことから、数々の聖母賛歌が生まれました。しかし、それらの中には、明らかに「行き過
ぎ」と思われるものもないわけではありません。第二バチカン公会議の『教会憲章』は、聖母マリアへの正しい崇敬を
奨励しつつも、唯一の仲介者キリストに対する、従属的役割であることを宣言しています(第8章、特に62項)。
 わたしたちも、教会のこの教えを第一にした「聖母への祈り」の神学を基準にして、聖母賛歌を考えると同時に、
聖母マリアが、そのことばで祈った『聖書』のことばによって、「聖母とともに祈る」ことを大切にしてゆくことこそが、聖
歌全般に言えるのではないかと思います。

371 「しあわせなかたマリア」
【解説】
 『典礼聖歌』の中で最初にあげられているのが、冒頭にもあげた、ラテン語では "Ave Maria”として有名な、371
「しあわせなかたマリア」です。203の栄光の賛歌や、367賛美の賛歌と同様に、D-Dur(ニ長調)でできており、高
らかに神とキリストをたたえる、これらに共通の祈りが、表現されています。
 6世紀に原型がシリアに現れたこの賛歌は、7世紀にはすでにローマ典礼にも導入され、「神のお告げ」の祭日な
どの奉納唱として歌われます。『聖書』の原文には「イエス」ということばはありませんが、教皇ウルバヌス4世(在位
1261-64)によって加えられました。後半、「けだかいマリア(Sancta Mria)」以降は、1440年頃、フランシスコ会、ベル
ナルディヌスの作と伝えられます。1512年、メルセス会の聖務日課書に用いられ、1568年、ピウス5世によって
正式に全教会の祈りとして採用されました。それ以前は、時代、場所によって、いろいろな祈りが、前半の賛歌につ
けられていたようで、その数は数千とも言われています。

 冒頭、天使、ガブリエルの呼びかけの最初は、D-Dur(ニ長調)の一の和音の中で、静かに、暖かくマリアに語りか
けてゆきます。「あなたとともに」から、旋律の動きが大きくなり、「かみ」で最高音D(レ)にあがります。この、D(レ)
が使われるのは、「あなたの子」、「かみの母」「かみーに祈って」の四箇所です。これら、五つの音は、父である神
と、その神の子イエスを指すことばです。これらは、最高音D(レ)で統一され、「いと高き方」「聖なる者」(ルカ1:35)を示
唆しています。
  前半8小節は、4小節が一まとまりで、さらに、4小節の中の後半2小節が、前半2小節のほぼ3度下で繰り返さ
れるようになっています。いわゆる「ゼクェンツ」の形をとることで、覚えやすくしてあります。前半の、賛歌の終わりに
当たる「あなたの子、イエ(ズ)スに」は、旋律も高まり、和音の開きも大きくなり、最後は、ドッペルドミナント(五の
五)から属調のA-Dur(イ長調)へ転調し、「いと高き方」「聖なる者」(ルカ1:35)を、思い起こさせて終わります。
 後半の祈願の部分は、「祝福は」からと同じ旋律・和音で始まります。最初から最後まで、ほぼ、和音の中の音
か、経過音だけで構成されていますが、「死を」だけは、経過的とはいえ、G(ソ)-A(ラ)-H(シ)-Cis(ド♯)と、
音階の連続する音が各パートで用いられ、その瞬間を強く感じさせます。
  「神に祈ってください」では、再び和音が広がり、神の前でわたしたちとともに祈ってくださる、聖母マリアに、
わたしたちのために祈ってくださるように、願いを高めています。その後、一転して旋律は囲うし、和音もオクターヴに
狭まり、祈りを謙遜のうちに終わらせます。
 全体を、締めくくり、祈りをまとめる「アーメン」は、「アーメン終止」と呼ばれる、教会の祈りの、伝統的な終止形を用いています。

【祈りの注意】
 冒頭、「しあわせ」の四分音符が間延びすると、テンポが遅れ、だらだらとして、祈りになりません。次の「わ」の八
分音符を心持早めに歌うようにすると、きびきびとした呼びかけになります。二回目の「マリア」まで、和音は一のま
まで、敢然としかし穏やかに、天使ガブリエルの呼びかけを、わたしたちの呼びかけとします。「恵みあふれるマリ
ア」のところは、特に、目の前にいるマリア様に、こころをこめて語りかけたいものです。続く「かみはおられ」では、最
高音、D(レ)が旋律で用いられます。この後、「あなたの子」「かみの母」「かみに祈って」も同様で、すべてを超える
神の恵みをたたえています。これらのところは、アルシスを生かしながらも、やや、リテヌートぎみにし、しかも、乱暴
にならないようにすると、ことばも音も生きてくるでしょう。この後、前半の終わり、「イエ(ズ)スに」に向かって rit. しま
すが、「あなたの子」で旋律が上行するのをうまく利用して、自然に rit. できるとよいでしょう。ここの和音は、五の五
を用いて、属調のA-Dur(イ長調)で終わります。なお、「イエズス」を「イエス」と歌う場合は、「ズ」のところを「ス」の
四分音符にします。
 後半の祈願の部分も、旋律、和音ともに、前半をほぼ繰り返します。「イエ(ズ)スに」で rit. しますが「けだかい」
からはきちんと元のテンポに戻しましょう。「神に祈ってください」は rit. しますが、まだ「アーメン」に続きますから、
やり過ぎないようにします。「アーメン」はテンポを戻してから、「あなたの子」と同様に、上行するのをうまく利用して
rit. しますが、締めくくりですから、丁寧におさめるようにします。
 「祈ってください」から最初に戻って、繰り返し、二回目に「アーメン」をつけて終わらせることもできます。
 教会の、最も古い聖母賛歌も、おそらくギリシャ語からラテン語を含む、周辺諸国のことばで歌われるようになり、
20世紀には、東の果ての、日本のことばでも歌えるようになりました。教会の、伝統に育まれたこの祈りを、これか
らも大切にしてゆきたいものです。

【参考文献】
 『新カトリック大事典』第一巻(研究社 1996) ”アヴェ・マリア”
『岩波 キリスト教辞典』(岩波書店 2002) ”アヴェ・マリア”(拙稿)

372 「救い主を育てた母」
【解説】
 "Alma redemptoris Mater"として知られている聖歌です。ラテン語のもっとも古い写本は12世紀とされているよう
ですが、グレゴリオ聖歌の旋律としては、11世紀のベネディクト会、ライヘナウ修道院のヘルマンヌス・コントゥラクト
ゥスの作と言われているのも面白いものです。第二バチカン公会議の前までは、待降節から主の奉献(2月2日)の
祝日までの「寝る前の祈り(終課)」の結びの聖母賛歌でしたが、もともとは、聖母の被昇天(8月15日)の6時課の
賛歌として歌われていました。現在では、用いる季節の制約はなくなっています。グレゴリオ聖歌の曲は、荘厳旋律
と簡易旋律の二種類があり、いづれも第5旋法で歌われます。
 「救い主を育てた母」はD-Dur(ニ長調)で書かれています。この調性は先にあげた371「しあわせなかたマリア」を
はじめ、ミサの式次第では204栄光の賛歌でも用いられています。また、待降節中の入祭の歌である301「天よ露
をしたたらせ」とも同じです。制約はなくなったとは言え、待降節から降誕節へかけて、寝る前の祈りで結びの聖母賛
歌として歌うことを念頭において、この調性が選ばれたものと考えてもよいでしょう。
 冒頭、および、第5~6小節では、アルトとバスが主音にとどまりハミングで歌われます。続く第3~4および第7~
8小節で歌われる部分と対比させています。ハミングで歌われる部分は、ラテン語では呼格(主格と同じ)で歌われ
る部分です。「たおれる」は旋律で最高音のD(レ)、「ものにはしりより」ではバスに最低音のFis(ファ♯)が用いられ
て、ことばを強めています。「力づけてくださるかた」、二小節飛んで「造り主を生んだかた」は、「~かた」という語呂で
旋律も伴奏も統一されていますが、後者は、最後の祈りへと続くと同時に、「ガブリエルからことばを受けた」の部分
が謙遜を表すために、6度のh-moll(ロ短調)を中心にしていることから、そのドミナント(属和音)で終止しています。
「すべてのものがたたえる中で」と「ことばを受けた」は、次の祈りにことばが続くことを意識して、ドッペルドミナント(5
度の5度)と、特に、バスでG(ソ)-Gis(ソ♯)-A(ラ)という半音階を用いています。なお、「すべてのものがたたえる
中で」は、ことばのとおり、すべてのものの高らかな賛美を象徴するように、旋律は最高音D(レ)を中心にして高音部
で動いています。「とわのおとめよ」からは、今まで歌われてきた、聖母の属性ではなく祈願となります。主和音を中
心にしていますが、前半は低音部、後半は高音部と対比され、特に、後半の高音部では、バスも最高音A(ラ)が用
いられて、聖母への祈りを高めて終わります。
【祈りの注意】
 指定された速度の表示は、四分音符=60くらいとなっています。また、旋律も緩やかに上下していますし、和音も
それほど複雑ではありませんから、あまり早くなく、聖母マリアにやさしく語りかけるように祈りたいものです。決し
て、粗雑に、それこそ、聖母の胸倉をつかむような歌い方にならないようにしましょう。
 始まりは mp 始めるとよいでしょうか。「開かれた」からは「た」を延ばす間も、天の門が開かれるように、cresc. し
てゆくとよいでしょう。バスもそれを暗示するかのように、最後の八分音符はH(シ)からA(ラ)に音が下がっています。
これは、文章と祈りの継続を音でも表しているものです(⇒251信仰宣言参照)。「たおれるものに」は、旋律が最高
音のD(レ)で歌われ、和音も開きます。また、「ものにはしりより」は、バスが最低音のFis(ファ♯)で歌われます。開
かれた声で、聖母のいつくしみを十分に表現したいところです。ほんのわずか accel. してもよいかもしれません。続
く、「力づけてくださるかた」は、その確信を持って歌いましょう。「すべてのものが」は、やはり最高音D(レ)、「たたえ
る」はバスの最低音のFis(ファ♯)が使われます。ここも、すべての被造物が聖母をたたえる賛美の声を表すように、
開いた声で歌いましょう。「たたえるなかで」と「造り主を生んだかた」「ガブリエルからことばを受けた」の終わりは、
ややていねいに、わずかに rit. するとよいでしょう。ただ、ここも、わざとらしくなく、自然にことばと音楽を生かせるよ
うにすることが大切です。
 最後の4小節、「とわのおとめよ祈りたまえ。われらのために祈りたまえ。」は、こころから、目の前におれらる聖母
マリアに、静かに、穏やかに願いをささげましょう。最初の「とわのおとめよ祈りたまえ」は、低い音が中心ですから、
祈りも、静かに深くしたいものです。最後の2小節、「われらのために祈りたまえ」は、今までの祈りのことばが天の
高みに香の煙が昇るように、声もこころも、キリストとともに天におられる聖母マリアのもとに静かに上ってゆくように、
開かれた声で歌ってください。
 作曲者も『典礼聖歌を作曲して』で書いているように、旋律は穏やかに上下して「対句的な旋律で」進んで行きます
から、「レガートで、二小節一息で、なめらかに、さらさらと」祈りをささげましょう。全体を、やさしく柔らかに、聖母マリ
アにささげる祈りとしてください。

【参考文献】
 『新カトリック大事典』第一巻(研究社 1996) ”アルマ・レデンプトーリス”
『岩波 キリスト教辞典』(岩波書店 2002) ”アルマ・レデンプトーリス”
 高田三郎『典礼聖歌を作曲して』(オリエンス宗教研究所 1992 )


「母は立つ」
【解説}】
 この賛歌のオリジナルのテキストは、「悲しみの聖母」の記念日(9月15日)に歌われる、続唱 "Stabat Mater"
で、日本語の歌詞は、作曲者によって意訳されたものです。この詩の作者は13世紀の詩人、ヤコポーネ・ダ・トディと
されていますが、ボナベントゥラ、あるいは、無名のフランシスコ会士とも言われています。続唱の多くは、トリエント公
会議の典礼の改革( restauratio )で整理されました。この続唱 "Stabat Mater" は、この記念日が導入された1727
年、ミサ典礼書に採用され、この日の続唱、および、聖務日課(教会の祈り)の賛歌となりました。第二バチカン公会
議の典礼の刷新(instauratio)では、任意に歌うことのできる続唱の一つとなりました。
 
 冒頭、2小節、二回繰り返される(二回目は2度高い)、旋律とテノールの音階進行はグレゴリオ聖歌の"Stabat
Mater" の最初の音階進行を思い起こさせます。一方、アルトと特にバスの持続音は、十字架の下で、わが子の苦
しみを、自らの苦しみとしながらも、毅然と立ち続ける、聖母マリアが大地を踏みしめる力強さを象徴しています。後
半は、5小節目の一拍目と、6小節目の一拍目で、旋律に四度の跳躍があり、冒頭の2小節×2と反対に、二回目
が2度低くなっています。特に、最初の2度の跳躍は、それまでの音階進行と対照的で、ことばを強調します。最後
の2小節は、1~3番は1括弧を歌い、4番だけ2括弧へ行きますが、「母」の部分の音が異なりますので、注意してく
ださい。
 この曲は1♭の d-moll(ニ短調)ですが、ニ短調の導音となるcis(ド♯)が三箇所しか使われておらず、B(シ♭)
と、自然短音階が効果的に用いられています。たとえば、4小節目のバスの3・4拍目に当たる二分音符のC(ド)は
和声的にはcis(ド♯)でも間違いではありませんが、C(ド)の方がより祈りが深くなると思います。是非、一度、歌い
比べ、または、引き比べてみてください。

【祈りの注意】
 この項の最初にも書きましたし、作曲者も『典礼聖歌を作曲して』(オリエンス宗教研究所 1992 )のこの曲の解説
(298-300ページ)で述べていますが、この曲も、「聖母マリア」とこころをあわせて歌いたいものです。何度も繰り返す
ことになるかもしれませんが、これが、現代の「聖母賛歌」の基本です。
 テンポの指示は、「四分音符=54くらい」となっていますが、最初の、上行音階進行の部分は、やや早めに、きび
きびと歌ったほうが、十字架に付けられた主の悲惨な姿、それを見つめたたずむ聖母の様子が、よりよく思い起こさ
れるのではないでしょうか。5小節目の最初の4度の跳躍は、歌われることばを力強く、厳しく、表現すると、祈りが
生きると思います。最後の5度の跳躍進行は、作曲者も指摘しているように、「決然と」「毅然と」歌いましょう(前掲書
300ページ)。
 全体を通じて強弱の指定がありませんが、これは、多くの典礼聖歌に共通しています。というのも、この曲を見ると
わかりますが、1番、2番、3番と歌詞が異なるので、表現の仕方が違いますし、特に4番は、最後は希望を持って、
「神の国」を待ち望むこころで歌います。たとえば、3番の後半は、それまでの、mf ないし mp から、subito P にし、
「いきたえたもう」の子音「K]「T」をはっきりさせると、よりことばが生きてきます。
 最後に、1番から3番では、「決然と」「毅然と」「母は立つ」と終えますから、rit. はそれほどしません。4番だけ、
「神のみ国を」くらいから徐々に、ただしあまり大きくなく rit. して、聖母マリアとともに神の国の完成を待ち望みなが
ら祈りを終えましょう。
 この賛歌は、「悲しみの聖母」の記念日以外にも、金曜日の寝る前の祈りや、四旬節の聖母賛歌としてふさわしい
でしょう。合本にはありませんが、『典礼聖歌 合本出版後から遺作まで』に収録されていますので、是非、歌ってみ
てください。

【参考文献】
 『新カトリック大事典』第三巻(研究社 2002) ”スタバト・マーテル”
『岩波 キリスト教辞典』(岩波書店 2002) ”スタバト・マーテル”
高田三郎『典礼聖歌を作曲して』(オリエンス宗教研究所 1992 )

「お告げの祈り」
【解説】
 現在では、それほど、行われなくなった祈りですが、朝、昼、晩の三回、三回の「聖母マリアへの祈り」を中心に、
招句+答唱句、さらに結びの祈願からできている祈りです。有名なミレーの『晩鐘』は、夕方の「お告げの祈り」で祈
る農夫たちの姿を描いたものです。
 この、お告げの祈りは、京都のカルメル修道会=お告げの聖母修道院の依頼によって作曲されたものです。最初
の歌詞は、文語文でしたが、後に、口語の「お告げの祈り」ができたので、『典礼聖歌 合本出版後から遺作まで』
(オリエンス宗教研究所 2004 )には、口語の祈りで載せられています。
 この、曲の表題は「お告げの祈り(先唱と会衆)」となっていますので、基本的に、共同体の祈りで、祈るものです。
この、聖母賛歌の中にもある 371「しあわせなかたマリア」と同じD-Dur(ニ長調)で、作曲されていますが、この
「お告げの祈り」が基本的に「聖母マリアへの祈り」で、できているのを考えると、同じ、祈りである「しあわせなかた
マリア」と同じ調で作られているのは、もっともなことと言えるでしょう。
 先唱者が唱え始める部分は、最後の結びの祈りの部分の「祈りましょう」を除き、最高音のA(ラ)となっています。
先唱者が最初に、高い音で始めることで、会衆が聖母に向かってこころを高めるように促しています。その後の「聖母
マリアへの祈り」の部分は、調の音階、第三音のFis(ファ♯)を中心に、先唱者の唱える前半は、Fis(ファ♯)-G
(ソ)-E(ミ)-Fis(ファ♯)と動き、会衆の部分では、最後がD(レ)で終止します。なお、会衆の部分は、二部で、下
声部は終止のD(レ)以外、三度下を歌い=D(レ)-E(ミ)-Cis(ド♯)=穏やかな和音を構成しています。
 結びの祈りの部分では、先唱者は、その前の会衆と同じFis(ファ♯)で歌い始めますが、これは、結びの祈りが、そ
の前の祈願分からの続きであることを音でも表しています。結びの祈りは、会衆も、二部に分かれて歌うことができる
ようになっています。旋律の部分は、「聖母マリアへの祈り」の部分と同じく、Fis(ファ♯)-G(ソ)-E(ミ)-Fis(ファ
♯)と進み、その後、終止のD(レ)になります。下声部は、最後まで、主音D(レ)にとどまり、神に向かって祈るわた
したちの姿勢、祈りが、確固としたものであることを表しています。
 オルガンの伴奏も、旋律以外は、基本的に、主和音を構成するD(レ)とA(ラ)ですが、「聖母マリアへの祈り」の部
分の、「罪深いわたしたちのために、今も死を迎える時も」はことばに対応して、和音が二と二の7なので、バスはG
(ソ)、テノールはH(シ)になっていて、しかも、第一転回という、和音としてはやや不安定なものとなっています。
 曲の最後は「アーメン」で終わりますが、これは、二種類あり、1は主音の旋律だけ、2は旋律がE(ミ)-Fis(ファ
♯)と進むものです。1の和音は四から一へ、2は二の7から一へと進みます。この二つの和音は、調で言えば並行調の
関係にある、近い和音で、2が1の変形ということもできるものです。ちなみに、四から一への和音進行は、教会音楽で言
うところの「アーメン」終止ですから、ここでも、伝統的な和音進行が使われています。
【祈りの注意】
 歌詞の部分が、ほとんど全音符と四分音符で書かれていることからも分かるように、この祈りも、基本的には、詩編
唱と同じ、八分音符の連続で祈ってゆきます。そこで、注意することをまず、箇条書きにします。

1 八分音符の粒を揃え、付点にならないようにする
2先唱者の四分音符の後、会衆が祈りを受けるところで、先唱者の四分音符が長くなったり、先唱者と会衆の
3 部分が切れないようにする
4 会衆の祈りの最後の四分音符の後の、八分休符はきちんと取る
5「聖母マリアへの祈り」と結びの祈りの部分で、息継ぎ記号の’と八分音符を混同しないようにする(「主の祈
り」と同じ)
6 ことばの字間があいている部分で、切ったり延ばしたりしないようにする(例:「聖母マリアへの祈り」の最後
のフレーズ=「今もー、死を迎える時もー」とならないように)
「さぃ」や「メン」など、小文字の部分も延ばさないようにする(「さいー」とならないように)

以上が、基本的な祈りに注意点ですが、これは、他の詩編の歌の注意でも書いているのと同じことです。では、な
ぜ、これらのことをしてはいけないかというと、これらをしてしまうと、ことばがきれいに聞こえず、また、ことばが生か
されず、品位ある祈りにならないからです。品位ある祈りにならないと言うことは、言い換えれば、その祈りは、よい
祈りではないので、聞き入れられないからです。わたしたちは、聞き入れていただくために、また、神のみ旨がわた
したちに行われるように、と祈るのですから、聞き入れていただけるような祈りかたで祈る、聞き入れられないような
祈りかたで祈らないのは当然ではないでしょうか。
 この曲には、速さの指定は全くありませんが、ことばが自然に聞こえるような速さ、祈りが、流れるように、聖母マリ
アと神へ昇ってゆく速さで祈ってください。
 なお、結びの祈願、「祈りましょう。神よ」の部分は、やや、ゆっくりと唱えるようにします。
 もう一つ、「聖母マリアへの祈り」の「罪深い」の発音ですが、この祈りの振り仮名では「つみぶかい」となっていま
すが、371「しあわせなかたマリア」では「つみふかい」、ミサの回心の祈りでも同様に濁りません。旋律をつけるとき
は「つみふかい」と、濁らないほうがより、ことばが美しく聞こえます。祈りを美しく表現することの、大切ではないでし
ょうか。ここでは、「つみふかい」と、濁らないほうをお勧めしたいと思います。
【音の修正】
 『典礼聖歌 合本出版後から遺作まで』では、「祈ってください。アーメン。」および「わたしたちの主イエス・キリスト
によって」のオルガン伴奏のテノールがA(ラ)になっていますが、これはFis(ファ♯)の誤りですので、修正してくださ
い。
【オルガン】
 この祈りは、パイプオルガンよりも、足踏みのリードオルガンで伴奏するほうが、その、繊細さと美しさを醸し出すよ
うに思えます。もし、リードオルガンがあるようでしたら、ぜひ、それを伴奏にお使いください。パイプオルガンの場合に
は、Swell のフルート系ストップの8’だけを、Swell ボックスを閉めて(人数によっては、少し開いて)伴奏してくださ
い。もちろん、バスは、ペダルが入ったほうがよいですが、これも弱い16’だけにし、Swell とコッペル(カプラー)で結
びます。伴奏はすべてタイで結ばれていますが、先唱者の部分はマニュアルのみで伴奏し、会衆の部分では、コッ
ペル(カプラー)したペダルを入れると、音に厚みも出ますし、タイも生かされます。ただし、ペダルが強すぎるようでし
たら、ペダルはないほうがよいでしょう。
 なお、出だしは、先唱者が歌い始めるまで、オルガンは、冒頭の二つの音を出したままで待っているようにします。

【参考文献】
『新カトリック大事典』第一巻(研究社 1996) ”お告げの祈り”


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